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片倉佳史『台湾に生きている「日本」』
http://www.amazon.co.jp/dp/4396111495/

下関条約以降、約半世紀のあいだ「日本」だった台湾に残る、日本統治時代の遺構を丹念に調べ上げて紹介・説明した著作。

著者は現地在住の日本人ライター。わたしは台湾事情に詳しいわけではないが、本当に丹念に調べられていて、文章もたいへん読みやすい。ここしばらく、台湾に対する日本の左右両翼の態度はいささか難しいものがあるが、この著者の視線は公平で、ルポ的な記述の良さもふくめて個人的にとても好感が持てる。新書という形態を活かした良書だと思う。

そのなかでも白眉とも言えるのが最終章「台湾の言葉となった日本語」。五十音順でけっこうな数の事例が並べられている。なかには日本人の語感からするとたいへん傑作なのもあり、つい声を出して笑ってしまった。3つほど要約的に説明を紹介してみたい。


【ウンチャン】台湾語
タクシーの運転手などを「ウンチャン」という。この単語は職種を表現する言葉でもあり、日本語に比べると差別感は少ない。タクシーに乗ると、運転手から片言の日本語で「わたしはウンチャンです」と自己紹介されることもある。

【オトコダー】ブヌン語
男性の「男っぷり」を賞賛する言葉。以前著者が、ブヌン族の集落の長老宅に招待され、酒を勧められたとき、一気に飲み干すと、周囲にいた若者が拍手とともにこの言葉を口にした。

【プロペラ】台湾語
相手の話す外国語や第二言語を褒める際に用いられ、意味は「ぺらぺら」。本来は飛行機のプロペラを意味していたが、誤用されて定着している。「彼は北京語がプロペラだ」などという。


それにしてもこの章は、言語学のフィールドワークさながらに現地語化した日本語が収集されており、素晴らしい。皇民化運動はもちろん認められないにせよ、台湾は日本人言語学者にとっておそろしく興味深いフィールドのはず。現地における日本語の浸透状況や語形・意味の変化などについてはたして調査はおこなわれているのだろうか。

台湾の日本語世代もすでに全人口の1割ほど。
いまのうちに言語学的なくわしい調査がのぞまれる。

  
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