先週、ビーレフェルト大学を初めて訪れた。
ニクラス・ルーマンが教鞭をとっていたことで有名だが、わたしには「聖地巡礼」的な趣味はない。ややこしいので経緯の詳細は省くが、今回訪問したのは、わたしの大学院のゼミ生が同大学のフェローに選ばれて、博士論文の研究のために4月から滞在しており、指導上の都合でその彼に会わねばならなかったからである。なお、東アジア~東南アジアの一帯の大学からフェローに選ばれたのは、彼が初めてである。
で、2日間の滞在中、それ以外の用事はなかったのだが、初日、彼を通じて、ビーレフェルト大学ならびにフライブルク大学の社会学と歴史学の若手研究者たち十数人とラウンジで飲みながらお喋りする機会を持つことができ、それが本当に楽しい時間であった。みな気さくで、仲も良く、とても良い雰囲気であった。そして何より、彼/彼女たちのその多才ぶりと多国籍ぶりに舌を巻いた。だいたいにおいて、英語・ドイツ語を含めて最低でも3~4カ国語は使えるという人たちである。日独バイリンガル、ならびに完璧な日本語を話すドイツ人もいて、まさかビーレフェルトで、わたしのゼミ生以外に日本語を話せる人にこんなに会うとはと、予想外のことに本当に驚いた(さらに翌日、無理を言って、歴史学者の2人にはラテン語で寸劇までしてもらった。ラテン語を話す人を生まれて初めてみた)。
そして2日目は、社会システム理論と現象学の関係について、非公式ながら即興でレクチャーをすることになった。出発直前に教え子の彼からメールで、周りにそういう希望があると言われ、過去の自分の論文ファイルだけ渡したものの、それ以外は完全にノープランで適当に引き受けた。突然のことだし、何よりドイツのそれもビーレフェルトである。そんな本場で無名の日本人が社会システム理論と現象学を講じたところで、実際には誰も来ないだろうと思ったのである。が、予想に反してこれまた10人ほど集まってしまった。挙げ句、90分の予定で始めたうちの冒頭10分で、当該論文の読み上げ部分は終わってしまい、大いに困った。で、じゃあホワイトボードを使いながら説明しましょうと。その場にいる人間のなかで英語力最低という我が身を考えれば暴挙であり、いま振り返れば何を考えていたのか分からないが、前日すでに打ち解けていた気安さと、非公式という責任のなさ、何よりも、講師の下手くそな英語を忍耐強く聞いてくれる若い参加者たちの偉大なる寛容さに助けられて、質疑応答も大いに盛り上がり、結局2時間半、楽しくお喋りができた。むろん、あれを言い足りなかったとか、もっと違う表現にすればよかったとか、反省点はいろいろあるが、そういうテクニカルな点以上に、このレクチャーは、わたしとって根本的に本当に大きな意義があった。たとえ言語ないし語学力の壁があっても、柔軟で理解力のある人たちとであれば、十分な意思疎通と学術的議論が可能だという確信を与えてくれた(母語が同じでも日本人の社会学界隈の一部とはこうはいかないと思いますがどうでしょう?)。
さらに、本レクチャーの参加者のひとりである若手研究者からは、休憩中に「あるものを取ってくるからちょっと待ってて」と言われ、何だろうと思ったら自著をいただき、これもまた本当に嬉しいことであった。また、レクチャー終了後、残っていたみなで写真を撮ろうということになり(下掲)、そして食事も一緒にしようということになって、街に繰り出し、議論も続き、またも楽しい夕べとなった。
現在在籍しているベルリン工科大学もそうだが、とくに若い人たち同士の関係と雰囲気の良さというのは、当該組織や学問そのものの発展にとって本当に貴重で重要だと思う。そういうところからは、今後も大いに人材が育っていくと思う。それに対して、数値目標を設定して量を満たすことが金科玉条になったような、日本で役所の掛け声で無理矢理やっている「大学のグローバル化」では、中長期的には大した成果は出てこないように思う。質が問われるということである。
ともあれ、あまりの楽しい時間に気が緩んだのか、3日目のビーレフェルトからデュッセルドルフ・日本デーへの移動中、まさかのハプニングに遭遇した。本当に困った事態であったが、不幸中の幸いと言うべきか、ドイツで10年以上頑張っているデュッセルドルフ近郊在住のE・Aさんのおかげで、その後の日程も何とかこなすことができた。
というわけで、ビーレフェルト大学にてお会いした皆さん、ならびにE・Aさんに、この場を借りて心から深く御礼を申し上げる次第である。またお会いしましょう!
追記 以下、
1)レクチャー終了後の写真(参加者全員が写っていないのが残念!)
2)上記ビーレフェルト大学で Marius Meinhof 博士からいただいたご自著 Konstruktion und Koordination von Wissen über relevante Umwelten. Der Umgang netzwerkförmigen Volunteer Tourism Organisation mit dem kulturell Fremden.
3)少し前にベルリン工科大学の若手研究者 René Tuma 博士からいただいたご編著 Der Kommunikative Konstruktivismus bei der Arbeit.


