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毎年恒例のゼミ・フィールドワーク合宿、今年は7月30日・31日の2日間の日程で、熊本県・天草地方に行ってきました。

当初は、本年4月発災の熊本地震で被害の大きかった地域に行くことも考えたのですが、計画段階で今後の推移が読めなかったこと、すでにゼミで早々に益城町にボランティアに行っており、またゼミ生個別にも行っていること、何より、われわれ自身が一種の「震災疲れ」をしていることもあり、学生たちとの再三の検討の末、県内は県内でも、今年度前期の本来的な学習課題であるナショナリズム問題との関連で、あえて上記の地をフィールドワークすることとしました。

ちょうど1週間ほど前に、天草市・崎津教会群を含む長崎県・熊本県のキリスト教関連遺産が、あらためて世界遺産候補として政府により推薦されることが決まったばかり。ちなみに「あらためて」というのは、本年2月にユネスコの諮問機関による指摘を受けて推薦が取り下げられたからですが、ともあれ、そうした隠れキリシタンたちの「受難」にスポットが当てられた、「喜ばしい」タイムリーなニュースの一方で、天草地方がいわゆる「からゆきさん」の主要な送り出し地のひとつであったことは、今日ではすでに忘却の彼方となりつつあるように思います。

移民や外国人出稼ぎ労働者は、昨今、とくに先進諸国でナショナリズムの攻撃対象となっており、またかつて日本人も、ハワイやブラジル、満州等々に多くの人たちが移民したのは周知の通りです。ですが「からゆきさん」については、そこまでの注目と関心が集まることは、少なくとも今日ではないのではないでしょうか。現実には、「からゆきさん」は、近代日本の「外貨獲得のための輸出品」にして大陸進出の「先兵」となったという点、また、その多くが悲惨な境遇を強いられたという点でも、決して無視できない存在だと思われます。

戦後、日本は、著しい経済成長を経て、とくに他のアジア諸国に対してそうした性産業方面でも相当に「強い」立場を得ることになりますが、相対的に経済面での差が縮まっている(あるいはいずれ追い抜かれる/すでに追い抜かれている)状況では、ふたたび何らかのかたちで「からゆきさん」に頼らざるをえなくなるかもしれません(もうある部分ではなっているかもしれません)。おととし香港を訪れたときに、からゆきさんのお墓を探し当てることができましたが、そのときもそんなことをぼんやりと考えました。


それはともかく、今回のゼミ合宿のために、まず山谷哲夫『じゃぱゆきさん』のからゆきさんに関する論述を含んだ第9章「アジアは女だ」をみなで読み、また山﨑朋子『サンダカン八番娼館』も各自で読み込みつつ、映画『サンダカン八番娼館――望郷』もみなで観ました。さらに、天草地方最南端の牛深にかつて存在した遊郭についての論文「牛深と遊郭――歴史、地理、経済を中心に」(亀井拓著)もみなで読み、まさに牛深の遊郭をモチーフにした大竹しのぶ主演の映画『女たちの都――ワッゲンオッゲン』もみなで観て、事前学習を進めました。天草地方のガイドブックとしては、さいきん出版されたばかりの『地球の歩き方JAPAN――島旅・天草』がたいへん読みやすく、役に立ちました。

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からゆきさんに関する本はほかにもあり(たとえば嶽本新奈『「からゆきさん」――海外〈出稼ぎ〉女性の近代』など) 、わたしも持っているのですが、震災で書棚が倒壊したため、ダンボールのなかに紛れていて今回は発掘できず、後期に機会を見つけてゼミ生たちとさらなる理解の深化のために読みたいと思っていますが、上記『じゃぱゆきさん』の当該箇所や、『サンダカン八番娼館』のエピローグ『からゆきさんと近代日本」は、社会学的な構造分析としてたいへんな勉強になりますから、ぜひ多くの方にも読んでみてほしいと思います。

なお、『サンダカン八番娼館』は、天草をあちこち歩き回って地名に馴染みのある人なら、全編、もっといろいろなことが深く理解できると思います。今日、わたしの知るかぎり、天草に「からゆきさん」の痕跡が人目に付くところに残っているわけではありませんが、ぜひ一読のうえ、この地を訪れてみてほしいと思います(ちなみに個人的には、天草には、隠れキリシタン関連の博物館だけでなく「からゆきさん」について、海外移住資料館のような感じの資料館があってもいいように思います。財政的な点で難しいかもしれませんが、それ以外のとくに「感情」面では、今日難しくないように思います)。

ともあれ今回のゼミ合宿、例によってゼミ生たちは事前にかなり緻密なスケジュールを立ててくれましたが、のっけからの予想外の「ハプニング」とともに、立ち寄るところがどこも見どころが多すぎて、時間が押しに押しました。みな、もう1泊したかったと言うくらいであり、本当に密度濃く、楽しい学びの2日間となりました。

また牛深では、天草宝島観光協会の「せどわ案内人」である吉田さんに、旧遊郭跡や漁師さんたちの集落などを詳しく案内していただき、さらには上記映画『女たちの都』の制作時の裏話も聞かせていただいて、たいへん有意義な時間となりました。しかも、われわれのおめあてである牛深食材の「うつぼ」が、地元では「きだこ(喜多幸)」と呼ばれ、地元のスーパーでも売っていることも教えていただいて、街案内後に購入までお付き合いいただいてしまいました。記して深く御礼を申し上げる次第です。ちなみに、買ったうつぼは、茂串海岸の本当に美しい海をみながら、みなで食しました。さらに、お忙しいところ突然の「珍客」に大変ご親切にしてくださった居酒屋ハートの皆さまにも、あわせて深く御礼を申し上げる次第です。


なお最後にひとつ。この前期終了とともに、拙ゼミ4年生のうち2人が、それぞれドイツと中国に留学で旅立ちます。合宿終了後、打ち上げも兼ねてささやかな壮行会を開催しました。これまでに学んだことを活かしながら、健康第一に、楽しく有意義な留学生活としてほしいと心より願っています。


※以下、合宿時の写真(いちばん下のパノラマ写真はゼミ生R・Hの撮影・提供)。
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amakusa photo by RH

  
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