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 先日3月25日は、本学の卒業式でした。好天に恵まれ、たいへん日差しも温かく、桜もちょうどきれいに開花しており、絶好の卒業式日和でした(九州では桜は入学式ではなく卒業式のイメージを喚起させるそうです。桜=入学という図式は、ソメイヨシノ誕生の地である東京の表象でしょう)。
 本年度は当ゼミからは1人の卒業生を出しました。2年生のときに文章作成の授業を受け持った学生のうちの1人であり、そのときは、いろいろな先生のところで学びなさいと勧めておいたのですが、3年生進級時にそのままわたしのゼミを希望してきました。ですので、わたしが本学で教鞭を執り始めてこの丸3年のあいだ、ずっと彼女に教えつづけたことになります。
 ただ当人としては、ゼミでは、先輩も後輩もいたとはいえ、同期には自分しかいませんから、指導教員との距離の取り方という点ではなかなか大変なこともあったと思います。教員の言っていることやキャラクターを直接に共有できる人間がいませんから。挙げ句、昨年度は台湾で1週間の合宿もおこないましたから、良くも悪くも、なおさらかなり密度の濃い付き合いだったと言えるかもしれません。が、持ち前のガッツ、あるいは「負けん気」で、よくがんばり通したと思います。卒業論文は、東京ディズニーランドについてという、一見すると「軽め」のテーマながら、実際には、内閣府のGDP統計、厚労省の国民生活基礎調査、総務省統計局の家計調査、東京都や浦安市の人口統計といった各種統計資料を駆使し、また、当時のオリエンタルランド社長の回想録、同じくオリエンタルランドの株主向け資料にまで目配りし、さらには実際にオリエンタルランドへの聞き取りなどもおこない、当時の浦安市の都市開発やディズニーランドの誘致構想などにもスポットを当てながら、高度経済成長を経て消費社会の幕開け、バブル景気、そして今日まで続くその後の経済停滞に至るまでの、日本社会の変化を、ディズニーランドというプリズムを通して見事に浮かび上がらせました。5万字を越える作品であるとともに、文章表現も優れており、ある一節などは、2014年度中に目にしたあらゆる文章のなかでも屈指の名文で、かつての文章作成演習の担当者としても嬉しいかぎりでしたが、これはむろんわたしの手柄ではなく、一文一文を吟味しながら書き続けた彼女の努力の賜物でしょう。
 とくにこの1年のあいだは、後輩たちからの刺激も受けつつ、ずいぶん成長したという気がします。今年度はコースの主任という立場だったので、卒業証書を直接手渡せたのは感慨深いかぎりです。あらためて卒業をお祝いすると同時に、今後のいっそうの活躍を期待したいと思います。

 また本年度は、一昨年度につづいてふたたび社会調査実習を担当しました。今回は、東日本大震災と福島第一原発事故によって熊本に来られた自主避難者の方々へのインタビュー調査です。先週末にようやく報告書『「自主避難」という選択――熊本県内の震災・原発避難者の意識と実態』が完成して、卒業証書伝達式直前の午前中には、インフォーマントの方々への発送作業まで終えることができました。
 テーマがテーマだけに、いつもにも増してデータ処理などに細心の注意を払う必要があったため、データクリーニングなどの一連の仕事量が膨大に膨らみましたが、最後の編集作業まで連日連夜よくぞやり通してくれました。頑張り屋さんで責任感の強い学生たちに恵まれたと思います。分析原稿の執筆にあたっても、書いては直し、書いては直しの「産みの苦しみ」の日々が2ヶ月以上も続き、全員がたいへんな難産を経験しましたが、おたがいに切磋琢磨しながら、最終的に各自1万4千字~3万字もの原稿を書き上げて、執筆者11人で計230頁近くという、厚みのある報告書を完成させてくれました。また、再稼働を巡って議論百出中の昨年11月というタイミングに、川内原発構内を見せてもらう機会に恵まれ、薩摩川内市内も銘々フィールドワークしたのは、よい思い出です。文字通り学生たちの血と汗と涙の結晶とも言える本報告書。分析視角もそれぞれ興味深いですから、今回の震災・原発避難という現象を明らかにする一助となればと願う次第です。
 なお、本報告書は、学術研究を目的とする方にかぎり頒布しています(郵送料のみ実費をご負担いただきます)。申し込みの要領はまた別途ご案内したいと思いますので、まずはこの場を借りて、貴重なお話を聞かせてくださったインフォーマントの皆さま、また、調査を始めるにあたって多大なお力添えをいただいた皆さまに、あらためて深く御礼を申し上げるとともに、学生たちの労を心からねぎらいたいと思います。就職活動等々もありますが、残り1年の学生生活を、ぜひこれまで以上に有意義な学びの時間としてください。

追記1
ちなみに今年度の我が社会人間学コースの卒業生たちは、3年次にわたしが本コース最後の「総合演習」授業の受け持ちだったために、ほとんど担当者の趣味によってユーゴ紛争について半年間いきなり学ばされたという、数奇な運命の人たちでもありました。複雑すぎてよく分からないことが世界にあるということ、そして、ありきたりな言葉では表せない戦争の凄惨さが実感できたなら、何よりだと思います。これからはそれぞれのフィールドでぜひ頑張ってほしいと思います。

追記2
2011年度に武蔵大学社会学部社会学科で受け持った1年生の基礎ゼミのメンバーも、ついに卒業とのこと。わたしが熊本に移ってからも何度かいっしょに飲みましたし、こちらの面々についても感慨深いかぎり。月日が経つのは早いものです。さらなる飛躍を期待しています。


ゼミ追いコン ゼミ追いコン

ゼミ追いコン ゼミ追いコン

卒業証書伝達式 卒業証書伝達式

卒業証書伝達式(五高内・T先生カメラ撮影) 卒業証書伝達式(T先生ご提供)

卒業証書伝達式(五高前)  卒業証書伝達式(五高前)

調査実習(薩摩川内フィールドワーク) 調査実習(薩摩川内フィールドワーク時)

武蔵基礎ゼミ(2014年夏・学生撮影) 基礎ゼミ同窓会(2014年夏・学生撮影)

  
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