熊本大学に着任して、はや1年が経とうとしています。

 先日、本年度担当の社会調査実習の報告書『就活の今――新就職氷河期における就活生の意識と実態』が完成して、先の週末は楽しい打ち上げでした。インフォーマントさんへの郵送作業も済ませました。
 本調査は、景気と雇用の急激に悪化したリーマンショック以降のいわゆる新就職氷河期に、一般企業への「就活」をおこなった12名の大学既卒者の方々を対象にしたものでした。大卒者の就職・就活については昨今調査研究が増えつつありますが、その多くがマクロの計量分析であり、実際に就職活動を体験した当事者たちの「生の声」を拾った研究はまだ少ないこともあって、インタビュー調査として実施しました。
 本年秋頃までには当サイトで報告書のPDFファイルをアップロードする予定なので、ここでは内容の詳述はしませんが、学生たちは何十時間もかかって計60万字以上に及ぶインタビューデータを文字に起こし、それをひたすら読み込み、ひとり1万2千字~2万1千字の分析原稿を書き、連日夜までかかって編集作業をおこない、報告書を完成させてくれました。自身の就活と並行させながらのことでもあり、よくがんばってくれたと思います。
 また、匿名での調査なので、お名前を出してお礼を申し上げることができないのが残念ですが、インタビューをさせていただいた12人のインフォーマントのみなさまには、この場であらためて深く御礼を申し上げる次第です。社会調査という社会的行為が成立しうるのは、ひとえにみなさまのような方々からの無償のご協力のおかげです。とくに今回の調査では、社会人になって数年という、学生たちにとってはお兄さん・お姉さんにあたる世代の方々へのインタビューということもあり、お話しいただいた内容は、学生たちが今後の自分の生き方を考えるうえでもずいぶんと刺激になったようでした。本当にありがとうございました。みなさまの今後ますますのご活躍を祈念申し上げる次第です。

 そしてもうひとつ。「現代社会の諸問題」をテーマにした本年度のゼミでは、3年生三人が初代ゼミ生となってくれました。年度内のゼミの授業自体はすでにすべて終えていますが、あらためてこの1年間を振り返ると、ゼミ生三人娘は新任教員の無茶な指導によく食らいついてきてくれたと思います。とくに後期は、日本の近代化と戦後史に関する文献を中心に、読んだ書籍と論文の数がハンパではなく、熊大文学部でもっとも厳しいゼミ、のような気がしないこともありません。少なくとも周囲にはそう思われているはず。それでも彼女たちは、ときにこちらが唖然とするほどの天然ぶりとマイペースぶりを遺憾なく発揮しながら、現代社会に対するアンテナの感度を着実に高め、興味関心の幅をずいぶん大きく広げてくれたと感じています。自分たちでは気づかないかもしれませんが、1年前とはずいぶん顔つきが違いますから。
 上記のテーマと直接関連することもあり、秋に水俣で合宿したのは良い思い出です。有明海を眺めながら在来線で水俣駅に到着し、自転車を借りて、駅正面のチッソ工場から水俣側と水俣上跡地を通り、市街地や商店街、蘇峰記念館、水銀ヘドロの埋め立て地であるエコパークや水俣病資料館などの各種施設をフィールドワークし、夜は一般財団法人水俣病センター相思社さんにお世話になりました。こちらのセンター、じつはけっこう複雑な道を経た山の上にあり、職員さんらには、自転車で来た人たちは初めてだと(半ば呆れられながら)言われる名誉に浴しました。それで喜んでいたのは教員だけだったかもしれませんが。ともあれ、翌日は、同センター付属の水俣病歴史考証館でも詳しいお話を聞かせていただき、学生たちにとってもわたしにとっても、たいへん勉強になりました。
 水俣ではほかもじっくり見て回りたかったものの、あまりの見所の多さに当初の予定よりも大幅に時間が押してしまい、最後やや駆け足になってしまったのは残念でしたが、2日目はとくに天気が良く、海の美しさはとても印象的でした。とくに、劇症型患者さんの多発集落を訪れたときに、坂を下ってふいに水俣の海の景色が目に飛び込んできた瞬間、そのあまりの碧さに、全員が思わず声をあげたほどでした。わたしも学生たちもみな初めての水俣訪問でしたが、彼女たちは一様に、持っていたイメージが完全に変わったと言っていました。タクシーの運転手さんたちのお話や、初日夜に食事をした居酒屋の店主さんとかわいい猫たち、某館の某女史さん、そして、同じく湯の児温泉と福田農場スペイン村から見えた海の景色も、強く印象に残っています。
 昨今、学生たちは3年次からすでに就活や資格試験に関する諸々に追われ、日程を合わせるだけでたいへんになっていますが、やはりゼミ合宿をすると、学生たちがグッと伸びるのが分かります。実際、今回合宿をおこなって、水俣病というあれほど凄惨な公害事件と、驚くくらいの海の美しさとが、頭のなかでただちには結びつかないというそのギャップが、水俣病そのものはもちろん、それを産み出した日本の近代化に対する、彼女たちの思考を深めるきっかけになったように思います。このようなわけで、新年度も何とか都合をつけてどこかに合宿に行ければと思う次第です。
 それにしてもこの1年を振り返ると、当ゼミでは、テキトーに理由をつけてはしょっちゅう酒を飲んでいたようにも思います。しかも、いつも何かワケの分からないものをつまみにしていたような気がしますが、いろいろ試したのでもう思い出せないくらいです。エスカルゴを腐らせたのは覚えているのですが。
 いずれにせよ、とても楽しい1年であり、わたしも多くのことを学びました。また2013年度もがんばりましょう。


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