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公益社団法人社会調査協会『社会と調査』32号に、拙調査実習事例報告が掲載されました。下記のとおりです。

多田光宏,2024,「大学不本意入学の経験,大学全入時代の学歴の意味――コロナ危機下での熊本大学文学部の社会調査実習」『社会と調査』32: 109-113.

タイトルからお分かりになるかと思いますが、当実習では、大学不本意入学者の経験をテーマに、該当する20代の16名の方(ほとんどが既卒ないし中退済)にオンライン・インタビュー調査を実施しました。まだコロナパンデミック真っ只中の2021年度、わたしが所属先の熊本大学文学部総合人間学科・社会人間学コースで担当した調査実習です。

学校教育を通じた人材の選抜と配分に関する研究はあまたあれど、その過程での個々の「敗北」の経験は、これまであまり注意が払われてこなかったように思われます。ですが学歴社会の構造上、そうした経験を(密かに)抱えて生きている人は少なくないはず。とくに日本は入口重視のいわゆるメンバーシップ主義が強いだけに、大学受験での「敗北」は、その後のライフコースや将来計画を大きく規定しうるし、当人のアイデンティティとも深く関わるでしょう。

しかも今日は、マーチン・トロウの表現を借りれば、大学教育のいわば「ユニバーサル・アクセス」の時代、つまりは事実上の大学全入化の時代です。したがって、あらためて学歴の意味が問われるはずであり、それを理解するにあたって、人がなぜ依然として受験勉強に励み、またどのようにして不本意な入学に至ったか、そしてその入学先でいかなる学生生活を送り、何より、学卒後の人生でどう「敗北」の経験を捉えているかは、重要な手がかりを与えてくれるように思われます。そこから見える日本社会があるはずです。

ともあれ詳細なファインディングスは、学生たちが作ってくれた報告書『大学進学と社会――大学への不本意入学経験者の意識と実態に関する調査報告書』を直接ご覧いただければと思います。担当教員のウェブサイトの研究紹介ページ https://mitsuhiro-tada-sociology.com/research/research.html にて公開されており、以下のリンクよりPDFファイルにて直接ダウンロードできます。わたしもやや長めの序文として「『敗北』を抱きしめて――大学全入時代の不本意入学」を寄せています。あわせてご笑覧いただければ幸いに存じます。

2022,『大学進学と社会――大学への不本意入学経験者の意識と実態に関する調査報告書』熊本大学文学部総合人間学科社会人間学コース・2021年度社会調査実習Ⅰ/Ⅱ(多田光宏担当班),248p.
https://mitsuhiro-tada-sociology.com/research/Tada-Survey2021_University%20Going%20and%20Society_for%20Website.pdf


ところで手前味噌ながら、わたしがご依頼により『社会と調査』誌に調査実習の事例報告を寄せるのは、これで3回目になります。2回載せてらっしゃる方はほかにもいらっしゃるかもしれませんが、3回目というのは、正確には確認していないものの、おそらくわたしが初めてのケースとなるのではないでしょうか。

いずれにせよ、これまでの教員生活で計5回、社会調査実習を担当しましたが、いつも真面目で熱心な学生たちに恵まれました。すべてはそのおかげです。今回の対象実習の受講生はもちろん、過去に担当した実習の学生のみなさんに、あらためて御礼をもうしたいと思います。

なお、事例報告の対象とならなかった過年度の調査実習も、ならなかったのはたまたまであり、どの報告書も立派なものです。すべて拙ウェブサイトの研究紹介ページにて公開してありますから、あわせてご覧いただければ幸いです(2014年度報告書はプライバシーの都合で一部のみ公開)。

また、過去2篇の拙事例報告も、『社会と調査』誌のウェブサイトにて公開されており、いずれも以下のリンクから入った先でPDFファイルにてダウンロード可能ですから、どうぞいっしょにご笑覧ください。

多田光宏,2016,「東日本大震災と福島第一原発事故から遠く離れて――『自主避難者』に関する熊本大学文学部での社会調査実習」『社会と調査』17: 97-103.

多田光宏, 2011, 「東京の地方出身者を調査する――東洋大学社会学部社会学科イブニングコースでの調査実習」『社会と調査』6: 77-81.


ところで手前味噌ついでもう1つ。
現在、全国の諸大学において、社会調査士資格の対象実習で作成された社会調査実習報告書は、原則として、社会調査協会を通じて一元的に国立国会図書館に納本されています。ですが、わたしが初めて社会調査実習を担当した2008年度の時点では、まだそうした仕組みはありませんでした。

そこでわたしは、当時の受講生たちに伝えた上で、彼らの作成した報告書(『東京の意味――地方出身者の「上京」に関する意識調査』)を個人的に同図書館に送付して納本しました。社会から直接の協力を得ているのだから、研究成果の社会還元という点で、公開と納本が原則だと考えたからです。

そのことを上掲の事例報告(2011)にも書いたわけですが、じつは、社会調査協会を通じた一元的な報告書納本の仕組みは、たしかその拙事例報告の原稿提出ないし刊行の直後、あるいはそれらと同じタイミングで始まったと記憶しています。

ですので、もしかして拙事例報告をご覧になった社会調査協会の先生方が、納本の意義を認めてそのようにしてくださったのかな、と思っています。むろんたまたまタイミングが重なっただけかもしれませんが、もしそのような経緯があったとしたら、今回の3回目の事例報告寄稿とあわせて、日本の社会調査教育に、多少なりとも貢献できたかなと考える次第です。


ところで、所属先も、折からの大学改革(改悪?)のあおりで教員数が減少しており、それもあって本年度からは、所属コースの社会調査実習はついに必修を外れ、選択科目になっています。そのため今後は、受講生の人数やモチベーションが事前に予想できない可能性があり、これまでのような調査実習は難しくなっていくことが予想されます。

ですが一担当教員として言えば、この時代にあっておそらく社会調査実習は、卒業後の社会生活の土台となる知的地力をつけるという点で、学生にとってもっとも意味のある科目だと思います。ですので拙コースの学生のみなさんにあっては、今後もどうぞ積極的に履修してくれることを願う次第です。