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この2018年度に担当した社会調査実習の報告書が刊行されました。タイトルは、『「グローバル化」を生きる大学生たち――スーパーグローバル大学採択校における「外国語ならびに海外に対する大学生の意識と経験等に関する調査」報告書』です。

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このボーダレス時代において、国連やユネスコが国際社会の平和共存のために「グローバル市民性」の涵養を唱えているのとは対照的に、現在の日本の内閣は、教育振興基本計画等においてやたら「世界で戦える人材育成」を謳っており、ほとんど学徒出陣さながらの総力戦状態です。

そしてその戦いの武器とされるのが英語であり、ご存じのとおり2020年度からは、新学習指導要領による小学校の英語教育の早期化や教科化が完全実施され、大学入試でも従来のセンター試験が廃止されて、英語での「聞く」「話す」のいわゆる「コミュニケーション能力」を測るために、英語の民間試験の活用されることになっています。

ちなみに高等教育自体が、すでにこの手の政財官一体のグローバル化政策に完全に巻き込まれています。その最たる例が、2014年に公募された「スーパーグローバル大学創成支援事業」でしょう。この新自由主義的な「選択と集中」型教育政策では、じつは本学も「スーパーグローバル大学」の一校に採択されており(タイプB「グローバル化牽引型」24校の一つ)、すでに2年前には「グローバルリーダーコース」と呼ばれる英語中心の特殊な教養教育コースが創設され、さらには2023年までに教養教育の半分の授業を英語で実施するという目標を掲げるなど、渦中の只中におかれています。


しかし、政財官のそうした鼻息の荒さのなかで、「スーパーグローバル大学」採択校において、当の学生たちはいったい外国語や海外に対して実際にどのような意識や経験を持っているのか。わたしが今年度担当した調査実習は、この問題意識で始まりました。

そもそも今の大学生たちは、小学校時代からすでに「外国語活動」を経験するなど、教育現場の混乱と疲弊を眺めながら、つねにグローバル化への対応を求められてきた世代でもあります。政財官、そしてさらには学までもがやたらと押しつけてくる「上からのグローバル化」圧力に対し、当人たちの見ているリアリティはどのようなものかを明らかにしようというのが、今回の調査趣旨でした。

このようなわけで、本学をサンプル校に量的調査を実施し、本学学部生7000人の1割を超える900人強からデータを収集して、多変量解析やテキストマイニングで分析したのですが、先行研究のレビューや調査票の設計に始まり、調査票の配布と回収、データセットの作成と統計解析、各自12000字以上の論文執筆、報告書の編集に至るまで、例によってきわめてハードな実習となりました。が、学生たちは、本当に最後までよく頑張ってくれましたと思います。とりわけ統計解析は、本学の調査実習ではきわめて珍しく、じっさい学生たちにとっても事実上ゼロに近い地点からのスタートでしたが、一致団結して大変な力作を作り上げてくれました。

このような多大な努力の結晶である今回の報告書は、以下のリンク先のサムネイルからダウンロードいただけます。なお、所収の各論文には、英語タイトルと英文要約(むろん論文執筆者である各学生が自身で作成)も付けてあります。英語は、手段であって目的ではないということを、いちど教育関係者も認識する必要があるだろうと思います。どうぞご笑覧ください。
http://mitsuhiro-tada-sociology.com/research/research.html#researchreports


それにしても「選択と集中」型の教育行政は、個人的にはもう末期という気がしないでもありません。昨年明るみに出た、文科省局長の子弟が大学医学部に不正入学した事件は、起こるべくして起こったと言わざるをえないでしょう。そもそも、19世紀型の社会ダーウィニズム流の「選択と集中」は、イノベーションの芽を潰すだけで、理論的にもうまくいきません。さらに示唆的なのは、アメリカやイギリスといった、英語を母語とする新自由主義の先陣グループがむしろグローバリゼーションに背を向け始めていることです。機械翻訳の性能も急激に向上していますから、「目的としての英語」は、もう時代遅れになりつつあるように思われます。

平成もまもなく終わります。ここで思い返しておきたいのは、その前の昭和の時代における総力戦です。ナショナリズムは煽れども、まともな作戦はなく、物資も足りず、他国にも甚大な被害を及ぼしながら玉砕に走り、最終的に敗戦しました。さて、新元号のもとではどうなることやら。またもその愚を繰り返すのでしょうか。そして、愚を繰り返したときの責任を誰がどのように取るのでしょうか。


ともあれ、今回の調査で回答してくれた904人の本学学部生の皆さん、調査票の配布にご協力くださった諸先生方、その他、お力添えをいただいた皆さんに、この場を借りて深く御礼を申し上げる次第です。本当にありがとうございました。

そして、本実習メンバーの皆さんの労を、あらためて心からねぎらいたいと思います。本当にお疲れさま。わたしは学生に恵まれました。打ち上げ(生ハムとラクレットチーズ?)を楽しみにしています。


追伸
本コースの4年生の皆さんも、一足早いですが、ご卒業おめでとう。昨年度のわたしの在外研究もあってあまり接点がなかったのは残念ですが、とくに卒業論文は、副査として楽しく読ませてもらいました。グローバル化の進展や人工知能の発達が著しいこの激動の時代だからこそ、政財界の思惑に振り回されることなく、変化のなかでも揺るぐことのない真の地力をまずは培ってください。皆さんの今後ますますのご活躍を心より期待しています。