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ばたばたしていて少し書くのが遅くなりましたが、先週をもって平成22年度の授業・試験もすべて終了。今年もまた個性豊かな学生たちに囲まれて楽しい1年になりました。

大教室での講義形式の授業でも、授業後に興味をもって話をしにきてくれたり、授業アンケートに好意的なことを書いてくれたりする学生たちがいて、楽しく手応えもありますが、やはり強く印象に残るのは、顔と名前の一致する小さな授業です。


まずひとつ、文献講読
本年度は、マルクス&エンゲルスの『共産党宣言』とヴェーバーの『社会主義』をみなで頭を悩ませながら読みました。最初は「マルクスって誰?」「プロレタリアートって何?」という状態からのスタートでしたが、100年以上も前に書かれたそれらの書物が、けっして社会学の殿堂の奥でほこりをかぶった過去のカビ臭い遺物ではなく、われわれが生きているまさに今の社会を眺めるうえでアクチュアルな意味のある本であることが、次第にわかってもらえたと思います。

本人たちは気づかないかもしれませんが、成長ぶりは教員にはちゃんと分かります。
最初のころはしょっちゅうつっかえながら、シドロモドロに読んでいましたが、徐々にスラスラと読めるようになり、こちらから何か質問をしても、難しいなりに自分の頭で考えて答えてくれるようになりました。

そうなってくると、みな話したいことがたくさんで、授業が脱線することもしばしば。
というか、のっけからなかなか本題に入らせてくれないことも一度や二度ではなかったですが、それはそれで楽しく、またそのくらい各人が世の中のことに問題関心を持っていて話すべきことがあるのは、素晴らしく思います。

このご時世ですし、社会学的には暗い話が多かったかもしれませんが、最後の授業で女子学生のひとりが「わたしが革命を起こします!」と力強く宣言してくれたことは、この社会の未来に希望を持てるひとコマでした。打ち上げの飲み会も二次会まで行ってたいへん盛り上がりました。


そしてもうひとつ。
本年度は、昨年度の文献講読のメンバーが中心となって、自主ゼミを開きました。自主ゼミをやりたいという話が彼/彼女たちから出たときには、じつは半ば冗談くらいに聞いていて、まさか本当にやることになるとは思ってもみませんでした。

参加者たちはこの1年間、おもにユルゲン・ハーバマスの『公共性の構造転換』を読みました。けっして読みやすい本ではないですから、行きつ戻りつしながら、一文一文噛み砕くように読み進めていきましたが、それでもみずから志願して学ぼうという優秀な4年生ぞろいでしたので、次第にハーバマスの言わんとするところがつかめたようでした。タイムリーなことに、ネット環境の普及が一助となって、目下、チュニジアやエジプトで革命やデモが起こっていますから、『公共性の構造転換』もそうした意味ではやはりアクチュアルで今日的にも大きな意義のある書物であり、読んでよかったと思います。

忙しい就職活動や卒業論文の合間を縫って、わざわざ自主ゼミのために大学にやってきて難しい文献を読んだのは、立派のひとこと。教員としても、学生たちの読解力や理解力はこれくらい時間をかければ(2年間とか週2コマとか)そのぶん大きく伸びることが分かりました。夏休み中の課外授業も良い思い出です。


思い返せば、はじめて大学で担当した授業も文献講読でした。そのときもじつは、学生たち(つまりわたしの初めての教え子たち)から自主ゼミをやりたいという声があったのですが、わたし自身、当時いろいろととても手が回らずそのままになってしまい、ずっと悔いが残っていました。今回学生たちから自主ゼミの希望が出たときに引き受けたのは、そのときのことがあったからでもあります。

じつはつい先日、そのときの教え子のひとりと、進路相談的なことで久しぶりに会う機会がありました。もう就職して3年目の社会人として立派に活躍していますが、コーヒーを飲みながら話を聞くと、いまもなお社会学的な関心を失っておらず、昨今の世の中の状況に強い問題意識を持っていました。当時からたいへん勉強熱心で活動的な学生でしたが、大学卒業後も、職場のルーティンワークに埋もれることなく、学び行動するそうした姿勢を保ってくれていたことに、内心うれしく思いました。授業で読んだ本のひとつで引用されていたフーゴ・フォン・ホフマンスタールの「概念がかび臭いキノコのように口のなかで崩れ落ちてしまう」という一節がいまも忘れられないと言っていました。


さて、本年度の自主ゼミと昨年度の文献講読のメンバーとで、先週、池袋で卒業祝いの飲み会をしました。全員無事に卒論も終え、春休みの予定や進路の話でひとしきり盛り上がっていたところ、ちょっとトイレに中座したら店内のBGMが海援隊の「贈る言葉」に。席に戻ってきてみると、学生たちが生花と寄せ書きをもって待っていてくれました。

思いがけないサプライズで、思わず胸が熱くなりました。帰宅して、あらためて寄せ書きをゆっくり読み直して、少し涙腺が緩みました。


風を切って希望と理想に向かって走る、若草の頃。
彼/彼女たちの人生のそんな時期に立ち会えて、本当に良かったと思います。
わたしも皆さんから多くのことを学びました。
ありがとう。

皆さんの今後の人生がますます素晴らしいものになりますように。
概念や言葉がなかなか現実に追いつかない今の世界を、
きっと皆さんたちが変えていってくれるはずと信じています。


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